#2 「屋根を付けろ!と叫んだゴダールの愛。」J・L・ゴダール

非常識人列伝

世界を動かした非常識人列伝 第2話

ジャン=リュック・ゴダール(1930〜)
ヌーベル・ヴァーグの騎手と呼ばれる映画監督

世界の映画監督の中でも、ゴダールほどの有名人はいないかもしれません。その作品を観たことがない人でも、映画史を開けば必ずその名前と作品が登場する。そして、多くの映画監督たちがその影響下で作風を磨いてきたのです。

ゴダールを一躍有名にしたのはジャン=ポール・ベルモンドとジーン・セバーグが主演した1959年に公開された『勝手にしやがれ』でした。この作品は従来の映画のルールに縛られず、主人公が突然、スクリーンのこちら側の観客に語りかけたり、延々と続く手持ちのカメラによる撮影が行われたり、カットつなぎの常識を無視して同じようなアングルのカットが連続でつながっていたり、本当に常識外れの映画でした。

数々のヌーベル・ヴァーグの監督の中でも、ゴダールは難解な作家として知られていますが、実はかなり可愛い監督でもあります。何しろ、惚れた女優にはメロメロ。例えば、1960年代のゴダールを支えたアンナ・カリーナとは結婚もしていたのですが、撮影時にこんなエピソードがあります。

アンナ・カリーナの主演作を撮ることになったゴダール。すでに売れっ子だったので部屋のセットを組んでもいいと言うことになりました。撮影用のセットなので、カメラ側の壁がなく撮影がしやすくなっています。また、ライティングもしやすいように、天井もありません。

ところが、いざ撮影が始まると、アンナ・カリーナが言いました。「ねえ、ジャン=リュック!壁がないと落ち着かないわ」。すると、ゴダールはスタッフに「アンナが落ち着かないってさ。壁作って!」と命じたのです。やっとのこと、壁ができ、アンナも落ち着き撮影開始!と思いきや、今度は「ねえ、ジャン=リュック!屋根のない部屋で寝るなんてあり得ないわ」とおっしゃるのです。もちろん、ゴダールがすぐに屋根を付けるように命じたのは言うまでもありません。

常識を打ち破り続けたヌーベル・ヴァーグの騎手も、惚れた女の前ではセットを普通の部屋に戻してしまうような、可愛い男だったというお話。でも、惚れたら一直線という性格が、ゴダールを世界の巨匠たらしめたのかもしれませんね。

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