#32 「スランプになると休筆していた推理小説の巨匠」江戸川乱歩

非常識人列伝

世界を動かした非常識人列伝 第32話

江戸川乱歩(1894年〜1965年)
日本の推理小説の礎を築いた小説家

小説をあまり読まないという人でも、江戸川乱歩の名前くらいは知っていますよね。学校の図書室にも『少年探偵団シリーズ』がずらりと並んでいましたから。本格的な推理小説からスタートしたキャリアは、欧米の影響を強く受けた探偵小説へと発展し、さらに幻想、怪奇、猟奇、犯罪といった幅広いジャンルの作品を世に送り出しました。

実は江戸川乱歩は戦前は人嫌いで有名でした。何しろ、人と会うことを徹底的に避け、人から何か言われることにとても敏感だったと言います。自分が書いた小説にいつも満足できず、いくら評判が良くてもすぐにスランプに陥るということをくり返していました。そして、スランプに陥ると人知れず放浪の旅に出て、ある程度自信を取り戻すと、再びペンをとり作品を執筆したそうです。

あの膨大な作品群が、そんな状況から生まれてきたのだと思うと、少しイメージも変わってしまいますね。そんな江戸川乱歩も、なぜか戦後になると人嫌いを克服し、すっかり人好きに。自分の家の前を掃除しながら、通学途中の小学生たちに声をかけたり、後輩の作家たちを自宅に呼んで歓談したり。まるで、戦前の乱歩からは考えられないほどだったと言います。

余談ですが、作家の筒井康隆さんも乱歩に自宅に招かれた一人。大作家の乱歩に会うという一大イベントに緊張した筒井康隆さんは、リビングに通されそこに一つの大きな椅子が置いてあるのを見つけます。そして、「ああ、あれは人間椅子かもしれない」と緊張が極限に達したと言います。

自分の小説に満足できず、スランプに陥り放浪の旅に出る。連載している長編小説を書くのが苦しいと、雑誌の休刊に大喜びをする。丁寧に整理していた妻からの手紙を急に恥ずかしくなってすべて処分してしまう。江戸川乱歩のそんな極端な性格は、彼の作品の底知れぬ怖さ、不思議さと繋がっています。そして、その奥深さがいつまでも読み継がれる作品の価値となっているのでしょうね。

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