世界を動かした非常識人列伝 第59話
ホセ・ムヒカ(1935年〜)
ウルグアイの第40代大統領
ホセ・ムヒカという名前を聞いたことがなくても、「世界で最も貧しい大統領」という言葉を聞いたことはあると思います。ムヒカは2010年から2015年まで南米ウルグアイの大統領を務めました。しかし、一国の大統領になっても従来からの質素な暮らしを変えることなく、報酬の大部分を寄付し、自分自身は友人たちからもらった2800ドル(約30万円)のフォルクスワーゲンに乗り続けました。
そんなムヒカの行動と言葉に、世界は少しずつ注目し始めました。特に2012年ブラジルで開催されたリオ会議でのスピーチは話題になり、ノーベル平和賞の候補にもなったのです。しかし、彼の言葉が人々の心を打ったのは派手な言い回しではなく、誰もが心の内で当たり前に思っていることを言葉にしたからでした。
「私たちは消費を続けるために生きているのではない」「グローバリゼーションに人間がコントロールされている」「貧乏な人とは少ししか持っていない人ではなく、無限の欲があり、いくらあっても満足しない人のことだ」そんなムヒカの言葉が日ごろ私たちが何気なく思っていた疑問を具体的な課題として白日の下にさらしたのです。
ムヒカが多くの人から尊敬の念をもって迎えられているのは、大統領という地位を得た後も、日々の暮らしから得た価値観を変えなかったことかもしれません。アラブの富豪はそんなムヒカの偉大な評価に対して、何を勘違いしたのか「あなたの愛車を100万ドルで買いたい」と打診してきたそうです。ムヒカは「友人たちからもらった物だから、売れば友だちを傷つけることになる」とこの申し出を断りました。