#98「不安にさいなまれた自信過剰な作曲家」リヒャルト・ワーグナー

非常識人列伝

世界を動かした非常識人列伝 第98話

リヒャルト・ワーグナー(1813年〜1883年)
ドイツの作曲家・指揮者

ワーグナーの音楽と言えば、日本では戦争映画に使われた『ワルキューレの騎行』が有名かもしれません。しかし、ドイツでのワーグナーの評価はもっと高く、ドイツオペラを世界レベルのものに押し上げた人物とされています。従来のオペラの形式を打ち破り、台本の戯曲性を高めることで、オペラを『楽劇』へと変貌させました。

そんなワーグナーですから、若い頃から才能に満ち溢れていたことは間違いありません。本人も自信過剰なところがあったようで、「自分は音楽史上希に見る天才だ。自分よりも優れているのはベートーヴェンだけだ」と豪語していたそうです。さらに若い頃には偽名を使って、新聞社に自分自身を絶賛する手紙を送ったり、貴族や起業家に「私の楽劇に出資する栄誉をあなたに与えよう」という横柄な手紙を送っていたといいます。しかも、断られると攻撃的な返事を出したというのですから、これでは周囲に敵が増えても仕方がありません。

晩年、ドイツ音楽界がワーグナー派とブラームス派に二分され、論争が繰り広げられた時にも、激しく対立したといいます。しかし、音楽については謙虚であったようで、実はブラームスの音楽についても「才能がある人にかかると、いろんなことができるものだ」と高く評価していたそうです。

ただ、人前にでると、持ち前の自信過剰が災いするのか、1870年、ベートーヴェン生誕100年のセレモニーに招待されたときには土壇場で出席者リストにブラームスの名前を見つけ、出席することはなかったそうです。自信と不安のなかで、翻弄されるようなナイーブさがワーグナーの音楽の中心にあるのかもしれませんね。

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