#106「寅さんとして生き、寅さんとして死んでいった男」渥美清

非常識人列伝

世界を動かした非常識人列伝 第106話

渥美清(1928年〜1996年)
国民的人気を博したコメディアン・俳優

山田洋次監督が生み出した映画『男はつらいよ』。渥美清が出演したこの映画シリーズは1969年にスタートし、1995年までシリーズ48作が制作されました。世界最長の映画シリーズとしてギネスブックにも認定されるほどの国民的な人気を誇る作品になったのです。

渥美清が寅さんに初めて扮したのは映画の少し前、テレビドラマとしての『男はつらいよ』でした。テレビドラマでは最終回で寅さんがハブに噛まれて死んでしまうのですが、その結末に抗議が殺到。映画化へとつながったそうです。その当時、渥美は40歳前後。そこから68歳で亡くなるまで、彼は自分自身のプライベートをほとんど公にせず、車寅次郎として生きることになりました。

気さくで、いつも明るく、誰とでも仲良くなる寅さん。そんな寅さんを演じていた渥美清はどんな人物だったのでしょう。実は意外にもプライベートでは監督や共演者とも交際をせず、公私混同を嫌う性格だったそうです。これには理由があります。まだシリーズが始まって間もなくの頃、ひとりのファンが街中で渥美に向かって「よお!寅!」と声をかけたのです。その時から渥美は、ファンに対して車寅次郎のイメージを壊わさないようにしようと決めたと語っています。

その公私の区別は驚くほどで、長年一緒に仕事をした山田洋次監督も共演者たちも、そして、親友だった黒柳徹子も、渥美の個人的な連絡先を知らなかったそうです。そして、亡くなる数年前から体調を崩していた渥美ですが、その病状も詳しくは伝えられませんでした。そんな渥美を振り返り、監督の山田洋次は「5年前に病気を知り、予断を許さないのは知っていました。(中略)そろそろ解放してあげたいと思いながら、もう一作だけ、もう一作だけ、もう一作なんとかと思って48作も撮ってきました」とわびながら弔辞を読み上げたそうです。

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