#142「映画監督の異常な愛情」スタンリー・キューブリック

非常識人列伝

世界を動かした非常識人列伝 第142話

スタンリー・キューブリック(1928年〜1999年)
アメリカの映画監督

『バリー・リンドン』『博士の異常な愛情』『2001年宇宙の旅』『時計じかけのオレンジ』『シャイニング』など、数々の名作を世に送り出したスタンリー・キューブリック。ハリウッドの映画監督でありながら、作家性の高い芸術的な作品を作り続けた監督として特筆されます。彼の作品を傑作たらしめている要因は何か、それはおそらく、キューブリック自身の作品へのこだわりでしょう。

キューブリックは脚本、撮影、編集、そして、製作もこなす才人でした。そのため、画面の隅々にまでこだわり、舞台装置や美術に対しても細部にまで注文をつけていたそうです。そんなキューブリックのこだわりは、実は彼の繊細さの裏返しでもありました。

特に現場にいない時の彼は傷つきやすく小さなことにも一喜一憂する性格だったと言います。『バリー・リンドン』で興行的に失敗したキューブリックは、その後の作品『2001年宇宙の旅』の試写会では、席を立つ観客の人数を数えていました。「241人が席を立ったんだ」とキューブリックは後にジャック・ニコルソンに語ったそうです。

映画製作のすべてに関われる才能があり、しかも繊細で傷つきやすい。キューブリックは二度と失敗したくないという気持ちからか、完璧主義者へと変化していきました。24時間休まず働くキューブリックは、スタッフや役者にも同じようなストイックさを求めはじめます。

『シャイニング』でジャック・ニコルソンの妻を演じたシェリー・デュヴァルは「普段は本当に優しいのに、撮影になるととても残酷なの」とキューブリックのことを語っています。作中、ニコルソンに追い詰められる妻役を演じるデュヴァルを同じように悪態を突きながら追い詰めていく。あの映画でデュヴァルが恐怖に戦いている迫真の演技を見せるのは、実はキューブリックに対する恐怖心の成せる技だったのかもしれませんね。

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