#205「日本の家庭劇を世界のベストフィルムに高めた巨匠」小津安二郎

非常識人列伝

世界を動かした非常識人列伝 第205話

小津安二郎(1903〜1963)
日本の映画監督

小津安二郎は日本の映画監督して、数多くの名作を遺した名監督です。特に1953年に公開された『東京物語』は年を追うごとに評価が高まり、2021年に英国映画協会が発表した映画史上ベストテンの映画監督が選ぶベスト10の第1位に選出されました。

小津映画と言えば、結婚する娘と父との愛情や、何気ない家族のやり取りを鋭い観察力と温かなユーモアで映像化しているものが数多くあります。また、ローアングルを基本として、移動撮影やカメラの横移動などがほとんどない撮影は、落ち着いたトーンを醸し出しています。ただ、その作風は当時の若手の監督たちからは「小津さんはいつも同じだ」「世の中が政治の季節だって言うのに、のんきな家庭劇ばかり撮っている」と批判されることも多かったと言います。

それでも、小津安二郎は作風を変えることはありませんでした。むしろ、同じテーマを繰り返し取りあげては、一作ごとにその完成度を上げ、緻密に積極的に深く深く作品に入り込んでいったのです。もしかしたら、時代の流れに合わせて作品を撮っていた若手監督よりも、小津のほうがある意味、狂気を孕んだ監督だったのかもしれません。

例えば、カラーになってからの作品を見ればわかりますが、どの作品のどのカットにも赤いヤカンや赤い暖簾、赤い食器などが必ず写っています。それは画面の構図を絞めるためのワンポイントだったのでしょう。さらに映画ファンの間で話題になったのはある作品の結婚披露宴のシーン。写ったテーブルの上にあった飲み物のグラスの中身が、全部同じ高さに揃えられていたのです。

もしかしたら、誰も気付かなかったかもしれない飲み物の高さに気付いてしまったら、すべてを揃えなければ気が収まらない。そんな狂気の執着心とこだわりが、小津映画に後世にまで語られるようなきらめきを授けたのかもしれませんね。

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