世界を動かした非常識人列伝268話
グレン・グールド(1932〜1982)
カナダのピアニスト・作曲家
グレン・グールドを一躍有名にしたのはバッハの『ゴルトベルク変奏曲』のレコードでした。それまで禁欲的な演奏で表現されていたバッハの楽曲をグールドは豊かな音色と個性的な奏法によって新たな光を当てました。このとき、グールドは24歳でした。このレコードのヒットにより、グールドはアメリカ、ソ連へと演奏旅行を行いましたが、その後は演奏会を嫌い、「コンサートは死んだ」と宣言して演奏会を拒否。レコード録音のみでグールドの演奏は聴かれるようになりました。
自分自身の音楽を探究するために、グールドは様々な奇行を繰り返しました。例えば、高さを調整できるピアノの椅子の高さを一番低くして使用、鍵盤を叩くのではなく押し下げる演奏を行いました。その結果、この椅子はどこでレコーディングする時も携帯され、有名な椅子としてファンに知られるようになりました。他にも、指を大切にするあまり夏でも手袋を外さなかったり、誰とも握手をしなかったり、歌いながら唸りながら演奏したり。演奏する楽曲を自分の物として表現するために、グールドは一切の妥協を許さなかったのです。
それは、世界的な指揮者を前にしても変わりませんでした。1962年に共演したレナード・バーンスタインは、コンサートの前に聴衆に話しかけたそうです。「いまから演奏する曲に関して、ピアノのグールドさんと私は意見も一致をみなかった。普通は折り合いをつけるものだが、今回は折り合いがつかなかった。それでも、私がこの曲の指揮をするのはなぜか。グールドさんのコンセプトがとても興味深いからだ。説得や魅惑や場合によっては強迫で妥協点を見出すのではなく、今回はグールドさんの驚くべき新鮮な感覚と信念から私たちが何を学べるのかという実験と冒険を実現させよう」と語り、聴衆から大きな拍手を浴びたそうです。
1982年、グールドは50歳で亡くなりました。最後の演奏はその前年。彼を世界的なピアニストとして有名にしたバッハの『ゴルトベルク変奏曲』をデジタルで再録音した演奏でした。