#74「音を伝えない技術でクリアな音を届ける試み。」

真空にヒントあり

2015年、ちょっと風変わりなスピーカーがデビューしました。THERMOSという魔法瓶のメーカーが開発した「VECLOS」というブランド名のスピーカーでした。小型でカジュアル。アウトドアにも利用できるBluetoothスピーカーで、一部のファンには高く評価されましたが、これまでと違う分野の商業ベースに載せることが難しかったのか、惜しくも2020年に撤退を余儀なくされてしまいました。しかし、このスピーカーは真空技術を駆使した画期的なもので、クリアな音質を実現していたそうです。

でも、ちょっと妙な感じがしませんか? 音というのは空気が振動することで伝わるはず。だとすると、真空技術で音を伝える、というのは矛盾している気がしますよね。その辺りを少し詳しくご説明しましょう。

実はこのスピーカーは魔法瓶のメーカーが開発しただけあって、魔法瓶の構造を利用しているのです。魔法瓶はボトルが二重構造で、その空間は真空状態。真空の熱が伝わりにくいという性質により内部の温度を保つことが出来ます。この構造をスピーカーに取り入れているのです。スピーカーにはエンクロージャーという筐体があります。簡単に言うとスピーカーユニットを入れる箱です。その箱の中は普通は大気で満たされていますが、THERMOSは魔法瓶の技術を使用して、この空間を真空にしたわけです。

このスピーカーにかかれば、音を出す方向にだけ存分に音を響かせて、箱の中を音を伝えない空間にしてしまうことで、余分なノイズを吸収してしまうことが可能です。また、余分な響きがなくなることで、音がこもることもなく、一つ一つの音が立ってくる、というファンの声もありました。

たった5年で撤退してしまったスピーカー「VECLOS」。しかし、その逆転の発想とでもいうべき企画力はこれからも新しい製品に引き継がれていくのだろうと思います。

74「音を伝えない技術でクリアな音を届ける試み。」
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