第2回『 水は70℃で沸騰する 』

新しいブランドの軸になるものをつくろう、ということでしたよね。

はい、そうです。

じつは私、展示会にも一度お邪魔させていただきました。

ありがとうございました。

それで、言いにくいんですけど、ちょっとがっかりしたんですね。

イメージと違いましたか?

真空って、ロマンのある仕事というか、普通の人が知らない世界というか、そういうものをイメージしてました。

ロマン感じなかったですか?

ブースに機械が並んでるだけだった、というのもあるんですけど。

他にも何か?

やってらっしゃるご本人たちが、まったくロマンを感じてない。

そうですね。お客様の研究開発や生産における課題に対して、適切な機器をご提案するというのがメインですので、印象としてはロマンから遠いかもしれませんね。

でも真空の技術って、色んな分野で使われているんですよね?

食品の真空パックやフリーズドライ、メガネやカメラのレンズのコーティングに始まり、医薬品、化粧品、PC、スマホ、宇宙、ありとあらゆる分野で使われています。

中でも魚の醤油入れにも真空がからんでいるとは知りませんでした。ほんと多岐にわたっていて驚きます。

はい。

そのバラエティ豊かさに比べると、すごくもったいない気がしました。

ブースの出し方が下手ですか?

佐藤真空さんだけじゃなく、展示会で見た他社さんもみんなそうでしたけど、下手というより、なんか閉じている感じ。

食品から宇宙まで、多岐のにわたる産業を支えている重要な仕事で、そこに誇りをもってはいるんですが。

残念ながら、その広がりを感じませんでした。

「僕らの機械や技術が使われてる」という自覚はあるんですが、やはり一般消費者に直接馴染みがないことが大きいのでしょうか。

いまいち効果に実感が持てないということですか?

いや、つくっているものには自信があるんですよ。ただ実感として「自分たちが支えてる」というところまで落とし込めていない気がします。

製造の中の「ひとつのステップ」を担ってるだけというイメージですか?

そうですね。

それは勿体ないですよ。だって真空をつくってるわけでしょ?

つくってます!

それって、すごくロマンがあるじゃないですか。だって、地球上に「宇宙をつくってる」みたいなもんですよ。

そうですね。そこにもっていきたいです、イメージを。ただ機械をつくっているだけではない。

機械ではなく「真空をつくっている」という発想が大事ですよね。

そうですね。僕らの中で知らず知らずのうちに「縁の下の力持ちなんだ」っていう気持ちが芽生えているのかもしれない。

このウェブマガジンを通じて、そこを変えていきたいです。

はい。真空の面白さとか、可能性とかを、たくさんの人達にも知ってもらって、参加してもらいたい。

真空ポンプ屋さんではなく「真空を仕事にしている会社」っていうイメージを、広めていきたいですよね。

そうしていきたいです。

で、私が一番ピンときたのは「宇宙がニュートラルだ」って話なんですよ。

宇宙では真空が当たり前ですからね。

はい。「真空」は地球では異常な状態だけど、宇宙ではそっちが普通。つまり地球上が異常な状態。そこがなかなか新鮮でした。

それが新鮮であるというのが、僕らにとっての気づきです。

ちなみに社員さんは、真空について詳しいんですか?

もちろん詳しいです。

詳しいけど、だんだんと「ロマンを感じている暇」が、なくなって来るんですかね。

そうですね。日々の仕事ではなかなかロマンを感じきれていません。

じつは真空屋さんに限らず、ケーキ屋さんとかも同じなんですよ。

ケーキ屋さんですか?

はい。ケーキ屋さんって、ロマンチックな仕事に見えるじゃないですか。

見えますね。女の子の憧れの職業みたいな。

でも、ずっとやってると、流れ作業みたいになっていくんですよ。

何年もやっていると、そうなるでしょうね。

だからこそ「真空ポンプ」や「真空装置」という枠組みを、一旦外すことが大事だと思ってます。その役割にこのメディアがなればいいなと。

そうですね。自分も気づきたい。気づかせてもらいたい、っていう思いがあります。

で、常識を壊すというか、変えるというか、そういうメディアをつくろうという話になったわけですけど。

はい。いずれにせよ既存の枠に捉われないメディアにしたいですね。

ウェブマガジンの名前ですが『水は70℃で沸騰する』に決まりました。

みんなの頭の中の常識は絶対「水は100℃で沸騰する」。真空の世界では水が100℃以下で沸騰することは常識なんですけど、普通の人にとっては「常識外」なんだろうなと。

理論的には分かるんですけど、言われるまでは知りませんでした。

真空を語るうえで最もキャッチ―な性質で、タイトルを見て100℃ではないことへの違和感がパッと見て感じられる。気に入ってます。

マガジンの名前としてはちょっと変ですよね。マガジンっぽくないというか。

そこがまた「いいな」と思いました。常識を裏切るという意味で。

かなり冒険したネーミングですよね。ところで「エベレストの頂上では70℃で水が沸騰する」という事実を、社員さんはみんな知ってるんですか?

「エベレストの」となると微妙です。

真空屋さんで働いているのに?

そうですね。性質としては常に利用しますが、日々の仕事では触れない知識です。

そうなんですね。

でも先ほどの展示会の話もそうですが、これが真空と関わりがない人との関わりが少ない証拠かもしれません。

ここで、今回のプロジェクトで「関わる人を増やしたい」ってことにつながるんですね。

それをきっかけに現在の仕事についても見直す機会ができる。それがまた自信や活力に繋がればいいなと。

どういう気持ちでやるかによって、仕事の意味って変わってきますよね。

その通りですね。すごく楽しみです!
~ 第3回へ続く ~
メディア誕生ストーリー
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