第3回『 余計なものをかき出すメディア 』

で、いよいよ「メディアをつくろう」となったわけですけど。

はい。そこまでが長かったです。

真空ポンプの話の中で「かき出す」というのが、個人的にはすごく新鮮でした。

はい。「吸い出す」のではなく「かき出す」。

そう、そこに、すごくこだわってるなって。

なんのこだわりか、よく分からないんですけど(笑)。

でもこだわりがあるんですよね?

真空ポンプって、吸うイメージがあるじゃないですか。掃除機みたいに。

はい、あります。でも違うんですよね?

僕らがつくっている真空ポンプの動きは、吸ってためるのではなく、回転する部品が空気をかき出して、外に排出する。

でも初めて聞いた時、すっごい驚きました。空気ってかき出せるのかと。水ならイメージわくんですけど。

物理的にも「吸い出す」より「かき出す」という表現の方が当たってるんです。

そうなんですね。

かき出して、気体の中の分子の数を極限にもっていくわけです。

極限ってどれくらいなんですか?

人工的につくり出せる真空の限界は10のマイナス11乗Pa程度。宇宙空間と同じ環境を作れます。

宇宙と一緒!凄い。

ははは。

でもイメージできないですよ。分子なんていう小さなものをかき出せるのかって。

目に見えないですからね。分子は。

空気って言っていいんですかね?かき出すのは?酸素?

窒素も酸素も含めて空気中の分子。

空気って、地球上で生きていくには、絶対必要なものじゃないですか。

はい。ないと、あっという間に死んでしまいます。

だけど真空という、宇宙の標準においては、不要なもの。というか、不必要なもの。

通常は、そこにないものですね。

それを、をかき出しているという。

そうですね。

それを聞いたとき「私の研究と似ている」って思いました。

境目研究家でしたよね?

はい。とくに「常識と非常識」の境目を研究をしてるんですが、それと似てる。

似てますか?

人間って、知識とか常識をベースに物事を考えるんですけど。

まあ、そうですよね。知識が全くないと思考できませんからね。

はい。でも知識や常識があるがゆえに、発想が行き詰まるんですよ。その延長線上でしか考えられなくなる。

確かにそうですね。

そこが似てるんですよ。常識って空気みたいなものじゃないですか?

確かに。空気がないと生きていけないけど、モノづくりには空気が邪魔になることがあります。

真空ポンプは「空気をかき出す」わけですよね?

そうです。余計なものがない場所でモノづくりをするために、空気をかき出して宇宙空間と同じような真空状態にする。

人間の頭もよく似てると思うんですよ。

余計なものが詰まっていると?

はい。だから「頭の中にある、余計なものをかきだす」というテーマが、このメディアにはぴったりだと。

「頭の中を真空にする」というコンセプトは、非常に面白いと思ってます。

自分の中にも、そういうのありますか?頭の中から、かき出したいもの。

長い間この仕事をやっている中で身についた常識、この業界の当たり前。そういうものを除いて、今一度新鮮な目で見直す必要があると考えてます。

業界を超えて、人間の常識をかき出すマガジンにしたいですね。

難しいですけどね。それは地球と宇宙の関係もそうですし。

宇宙との関係?

はい。地球にいると、空気があることが当たり前になってしまうので。

なかなか宇宙人の気持ちには、なれないですよね。

やっぱりみんな「小さな掟」のなかで生きていて、小さな世界とか、常識のなかで考えてしまう。

「業界の枠を壊そう」っていう発想だと、逆に業界の枠を出ないかもしれませんね。

今あるものを壊すって普通ですもんね。手法としては。

酸素と同じで、地球上のルールや社会の常識とかって、地球から離れてみると単なる異物なのかもしれませんね。

変革して、壁を壊して、新しいものを作っていくというよりは、元々あるもの自体を「ちょっと違うんじゃないか」って疑問を持って、再考してみる。

本業で空気をかき出しているわけですから、是非このメディアでも「常識とか知識とか」をかき出して欲しいです。

そこにチャレンジしたいです。

でもある意味、結構リスキーなチャレンジですよね。「この会社何考えてるの?」って思われるかもしれない。社員さんにも。業界にも。

不安です(笑)

不安だけどやる?

正直言うと、期待と不安と半々です。でも僕らの仕事を考えたときに、納得できる部分もあるんですよ。

それはどういう?

僕らは「モノを作るのに最適な環境」をつくっているわけです。真空ポンプや真空装置をつかって。

はい。そうですよね。

こじつけかもしれないけれど、頭の中に「新しいアイデアとかブレイクスルーが生まれるために最適な環境」をつくってあげる。

なるほど。

別のかたちでの、モノづくりに最適な環境づくり。

こじつけの割には、綺麗に一致してますね。

はい(笑)

真空って「完全なる分子ゼロ」の状態じゃないんですよね?

はい、完全なゼロは存在しません。

頭の中も同じだと思うんですよ。

完全なゼロにはならないと?

そうなんですよ。たぶん、どんどんかき出していくと、本当に必要な思考のフレームだけが残る気がします。

物事を考える理想の状態が出来上がると。

そうです。からっぽではなく、真空状態。

まさに頭の真空状態ですね。うちがやるべきだって気がしてきました(笑)
~ 第4回へ続く ~
メディア誕生ストーリー
第1回「 きっかけはキーホルダー? 」
第2回「水は70℃で沸騰する」
第3回「余計なものをかきだすメディア」※本記事
第4回「曲がって見える直球」