#208「多くの命を救った赤いバンダナのトレーダー」ウェルズ・クラウザー

非常識人列伝

世界を動かした非常識人列伝 第208話

ウェルズ・クラウザー(1977〜2001)
アメリカのトレーダー

2001年9月11日、午前9時頃。ニューヨークは騒然とした空気に包まれていました。何気ないいつもの朝、多くの人々が仕事をするために摩天楼のビル群に吸い込まれるように出社し、さあ、仕事を始めようとした時、あのアメリカ同時多発テロが勃発したのです。もちろん、最初の旅客機がワールドトレードセンターに激突した瞬間には何が起こっているのかを知る人はいませんでした。

当時24歳だったウェルズ・クラウザーも同様でした。彼が他の人々と違ったのは、その後に彼が取った行動です。みんなが自分自身の安全確保を最優先に動いたのに対し、彼は周囲の人たちの救出を第一に考えたのです。クラウザーはトレーダーとしてワールドトレードセンターの104階で働いていました。しかし、彼は16歳の時に消防士のボランティアをしていたことがあり、もしかしたら、その経験が彼を人命救出という行動に駆り立てたのかもしれません。

最初の飛行機が激突してしばらくしてから、クラウザーは母親に電話をかけています。「かあさん、僕は大丈夫だからね」穏やかな声で留守番電話にメッセージを残すと、彼はビルから脱出しようと階段を降り始めますが、その途中の78階で同じように脱出しようとしているグループと出会います。そのなかの自力で動けない女性を背負うと、彼は1階まで運びました。その後、すぐに他の生存者を助けるため、クラウザーは階段を駆け上ります。こうして、彼は18名の命を救いました。

しかし、その直後のビルの崩壊に巻き込まれ、クラウザーは帰らぬ人となりました。クラウザーは救出の際、煙を吸わないように赤いバンダナで口元を覆っていたため、助けられた多くの人々はこの赤いバンダナを覚えていました。そして、クラウザーの行動は賞賛を集め2006年、ニューヨーク名誉消防士の称号を与えられます。また、9.11記念館には彼の赤いバンダナが展示されているそうです。

クラウザーが子どものころ、彼の父親は教会に行くときにズボンのお尻のポケットにいつも赤いバンダナを入れていたそうです。クラウザーが6歳の時、父親はこの赤いバンダナを彼にプレゼント。以来、彼は自分のトレードマークとなるくらいに、赤いバンダナを持ち歩くようになりました。

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