#16 「極度の潔癖症が生み出したロマンティシズム」泉鏡花

非常識人列伝

世界を動かした非常識人列伝 第16話

泉鏡花(1873年〜1937年)
明治後期から昭和初期に活躍した小説家

尾崎紅葉門下の泉鏡花は石川県金沢市の出身です。『外科室』『高野聖』などの怪奇趣味と独特のロマンティシズムが色濃い作品群で幻想文学の先駆者として現在でも高い評価を得ています。芥川龍之介が自殺した時、枕元には聖書と泉鏡花の本があったと言われ、谷崎潤一郎が「天才だ」と絶賛したという泉鏡花。そんな彼の作品は、日本の伝統文化の流れをしっかりと受け継ぎながらも、西洋文化の流れをも受け入れ、独自の文学世界を手に入れました。

そんな泉鏡花を泉鏡花たらしめたのは、おそらく過度の潔癖性だったことではないでしょうか。川端康成は「鏡花ほど豊富で、変幻極まりない語彙を持った作家は、おそらく空前絶後だろう」と評価したそうです。なにしろ、「豆腐」の「腐」という字が嫌いで、「府」と書き換えるほどだったと言います。

文字には言霊が宿る。そう信じていた泉鏡花は原稿用紙で書き損じた部分は墨で黒々と塗りつぶしました。文字が透けて見えるようでは言霊がよみがえると考えていたのでしょう。また、どうしても行き詰まって原稿が書けなくなると、原稿用紙の下に敷いた半紙に清めの水を掛け、お祓いを続けたと言います。

他にもあんパンを食べるときには、ばい菌を怖れて全体を消毒のため焼いてから、指でつまんで食べたそうです。しかも、指でつまんだ部分はばい菌がついている、と捨てたというから徹底していますよね。

しかし、そんな潔癖でこだわりの強い鏡花だからこそ、誰にも真似の出来ない幻想的で独自の文学世界を手に入れることが出来たのです。


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