#53 「『アメリカ映画最大の恥』を撮り上げた『映画の父』」D・W・グリフィス

非常識人列伝

世界を動かした非常識人列伝 第53話

D・W・グリフィス (1875年〜1948年)
「映画の父」と呼ばれた映画創世記の大監督

グリフィスは映画の創世記に様々な映画文法の基礎を生み出した人物として知られています。モンタージュ、カットバック、クローズアップなど、数多くの映画技術を確立し、映画を見世物から芸術の域に高めたとも言われ、映画の父と呼ばれるまでに尊敬を集めました。

アメリカ初の長編映画『國民の創世』や『イントレランス』といった作品は現在でもアメリカ映画の名作として評価されています。しかし、グリフィスは多くの尊敬を集めると同時に、「アメリカ映画最大の恥」を生み出した映画監督でもあるのです。

『國民の創世』は1915年に制作された無声映画です。南北戦争前後の動乱のアメリカを描いたこの作品は北部と南部の奴隷解放問題を主軸にしたものですが、ストーリーの運びや登場人物たちの感情表現など、グリフィスの演出が冴え渡り、いま見ても多くの発見がある名作です。そんな作品がなぜ「アメリカ映画最大の恥」と呼ばれるのか。その理由は作品中の善悪の描き方にあります。

実は『國民の創世』では黒人が悪として明確に描かれてしまっています。黒人に白人が襲われるシーンなどがあり、映画を見た白人たちは「黒人に襲われる」と勘違いさせ、これが事実上、活動を停止していたKKK(クー・クラックス・クラン/白人至上主義の秘密結社)を復活させるきっかけになったと指摘する人もいるほどです。

こうして、主演のリリアン・ギッシュの美しさを引き出したソフトフォーカスや見事な緊張感を演出したカットバックなど、数多くの見事な場面を生み出しながら、『國民の創世』は呪われた映画としても名を馳せることになりました。皮肉にも、グリフィスが名監督だったからこそ、『國民の創世』は両極端の評価を得ることになったのです。

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