#54 「世界で最も成功した歌手が、監獄で歌った『イエスタデイ』」ポール・マッカートニー

非常識人列伝

世界を動かした非常識人列伝 第54話

ポール・マッカートニー (1942年〜)
世界を席巻したビートルズの中心人物

ポール・マッカートニーは1942年、イギリスに生まれました。いまも語り継がれる伝説のロックグループ・ビートルズのメンバーとして活躍し、その解散後もウイングスやソロとして現在も活躍を続けています。これまでに制作した楽曲は2019年までの間で500曲以上。1965年にはMBE勲章、1997年には英国からナイトの爵位を授与されています。また、1999年にロックの殿堂入りを果たし、その他にも世界各国の栄えある賞を受賞。名実ともにスーパースターであり、素晴らしいクリエイターであることに間違いはありません。

そんなポールと日本との関係で、もっとも印象深いエピソードと言えば、やはりビートルズ解散後の初めての日本公演時のものでしょう。1980年、ポールはウイングスのメンバーと共に日本公演のために成田空港に降り立ちます。しかし、そこで彼は大麻所持で逮捕されたのです。この衝撃的なニュースはあっという間に世界を駆け巡りました。多くのファンがポールの身を案じ、東京・中目黒の麻薬取締官事務所に集まりました。

この事件によってコンサートは中止、ポールは強制送還となりました。しかし、このとき、拘置所でポールと一緒になったある収監者が後に披露したエピソードは、世界的なスーパースターであるポールの人間的な一面を教えてくれました。

同じ留置場のなかにポールがいると知ったその人物は、数メートル離れたポールの独房に聞こえるように「ポール!イエスタデイ、プリーズ!」と叫んだのです。すると、係員が走ってきて「静かにしろ」と注意しました。「ああ、これで歌は聴けないなあ」と諦めかけたその時、ポールの「OK!」という声が聞こえ、冷たいコンクリートの床を手と足で叩くリズムが聞こえてきたそうです。やがて、ポールが歌う「イエスタデイ」は留置場のなかに響きました。みんながその声に聴き入り、係員もそれを止めることはなかったそうです。その後、留置場の中は拍手で埋め尽くされ、ポールは合計4曲を歌ってくれたといいます。

このエピソードは、ポールがファンの願いに応えたという気さくな人柄を伝えると同時に、逆にまだ若かったポールが異国の留置場という極度の不安の中でファンに救われたという、人間的なエピソードなのかもしれませんね。

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