#58 「長編の主人公に父を選んだショートショートの天才」星新一

非常識人列伝

世界を動かした非常識人列伝 第58話

星新一(1926年〜1997年)
1001話のショートショートを生み出したSF作家

星新一はショートショートの名手として知られています。読みやすい洒落た文体は、多くの人に愛され現在でも大人から子どもまでファンがとても多いのです。彼が遺したショートショートは1001話あると言われていますが、その中に長編小説が何本かあります。

星新一が書いた長編小説と聞くと、どんな壮大なSF小説なんだろうと思いますよね。確かにSFもあるにはあるのですが、実はノンフィクション小説が多いのです。しかも、それらは父や祖父などを主人公にした作品でした。

星新一はその作風から飄々とした人物だと思われているのですが、実際には「子ども向けの作家」だと思われていることへの不満や、家族との確執、ライバル作家への嫉妬などを隠さない神経質な人だったという評伝が出版され大きな話題となりました。そんな星新一の性格形成に大きな影響を与えたのはやはり父親だったのではないでしょうか。

星新一の実家は星製薬という製薬会社でした。その製薬会社を起こした実の父親を主人公にその栄光と挫折を描いた『人民は弱し官吏は強し』は星がその執筆に並々ならぬ力を割いた作品と言われています。

一代で製薬会社を起こし、成功へと導いた父に対する尊敬の念と、そんな父の事業を翻弄した国の政策、そして、継いだ会社を破綻させてしまった自分へのふがいない思い。そんなすべてが星新一の複雑な性格を形成していたのかも知れません。そして、それがショートショートというこれまでになかった新しい分野の第一人者となる資質を育て、また一方で長編小説での成功という憧れや嫉妬を生んだのでしょう。

晩年の星新一は自身が生み出した1001話のショートショートが、古いものにならないように、細かく手を入れ、古くなってしまった言葉を新しい言葉に置き換えていたそうです。

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