#101「色鮮やかな絵師は模写の達人だった」伊藤若冲

非常識人列伝

世界を動かした非常識人列伝 第101話

伊藤若冲(1716年〜1800年)
江戸時代の画家

伊藤若冲は長く日本の絵画の歴史の中ではある意味異端とも言える存在でした。もともと存命中から人気の絵師であった若冲ですが、死後はその希なる表現力が災いし、わびさびを好み正確な描写を尊ぶ画壇では正当な評価を得られませんでした。しかし、1990年以降その超絶技巧とポップな構成センスは再び脚光を浴び、2006年に東京国立博物館で開催された『若冲と江戸絵画』展で人気に火が付きました。この展覧会はアメリカ人収集家であるジョー・プライスのコレクションによるもので、海外の目利きによって、若冲は改めて光が当てられる存在となったのです。

若冲と言えば、多くの動植物を描いた絵が知られていますが、その多くは裏彩色といわれる技法によって描かれています。墨色などを表面に塗らず裏側から彩色することで、透明感のある瑞々しい表現が可能になったと言われているのです。若冲は他にも様々な技法を身につけ駆使していますが、それらは並々ならぬ数の模写をこなしていたからこそ。彼は暇さえあれば、せっせと中国画などをひたすら模写し、鶏などの素材がいればひたすら写生をしていたそうです。

何かに取り憑かれたように絵を描き続けた果てに、若冲にしか見えない構図や色彩があらわれてきたのかもしれません。実際、彼が描く動物や植物は、実際の形状や色とは異なっているのに、実物よりもいきいきと艶やかに私たちに迫ってきます。それは若冲という天才がひとつの道標になり、私たちに世界の豊かさ、面白さを伝えてくれているからなのでしょう。

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