#155「手紙魔だった不条理小説家」フランツ・カフカ

非常識人列伝

世界を動かした非常識人列伝 第155話

フランツ・カフカ(1883年〜1924年)
オーストリアの作家

『変身』などの作品で有名なカフカは、プラハ出身のユダヤ人です。この出自がカフカの作風に影響を与えていたのは間違いはないでしょう。当時のプラハはチェコ人の街でありながら、多くのドイツ人が政治的にも街を運営していました。もともと住んでいたチェコ人が労働者に、後から来たドイツ人が資本家として暮らしていたのです。

そんな街にやってきたユダヤ人は、対立するチェコ人とドイツ人のなかで、ドイツ人として生活する者が多かったのだそうです。カフカの父もプラハで高級小間物商を経営していました。ドイツ人ではないのにドイツ人のように資本階級に属し、チェコ人を雇用して暮らすカフカ一家。そんな中で育ったせいか、カフカは40年という短い生涯の間、社会に馴染めないという感覚が消えなかったといいます。ドイツ語を母語として育ったのにも関わらず、実際にはユダヤ人であるという感覚が彼の作風にも表れているのかもしれません。

カフカの代表作は前述の『変身』ですが、この作品の主人公はグレゴール・ザムザ。ある朝、目が覚めるとザムザは自分の身体が変身し、虫になっていたというところから物語は始まります。虫になった息子を心配する家族の反応は物語が進行するにしたがって変化していきます。家族の心ない発言や行動を目の当たりにしながら、主人公は自分の本当の居場所はどこなのか、本当の家族とはどんなものなのかを自問自答することになります。

いまでこそ、優れた不条理劇を生み出した小説家として知られているカフカですが、生きている間はほとんどの作品は未刊でした。彼が有名になったのは死後の話。生きている間、彼は保険会社に勤める会社員でした。礼儀正しい、健康に気を遣う、スポーツマンだったカフカ。だいぶ、小説のイメージとは違いますね。あんな風変わりな小説を書いた小説家なのに、ごく普通の人なのかな、と思っていたら、いえいえ、やっぱりちょっと変わったところのある人でした。それは驚くほどの手紙魔だということ。彼には何人かの恋人がいたのですが、彼女たちに書き送ったラブレターがなかなかに強烈です。

まず、手紙の返事がないとカフカは怒ります。そして、返事をしろと何度も手紙を書き送ってくるのです。さらに、手紙を優しく撫でてくれ、自分の手紙にくちづけしてくれ、手紙を肌身離さず持っていてくれ、などとちょっと変わったお願いを書いてきます。しかも、カフカは実際には恋人に会うよりも手紙のやり取りの方に執着していたようです。現代ではメールやSNSでのコミュニケーションのほうが気が楽でいい、という若者が多くなった印象ですが、カフカはもしかしたらその先駆けのような存在なのかもしれませんね。

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