#158「動物たちと生きたカバ園長」西山登志雄

非常識人列伝

世界を動かした非常識人列伝 第158話

西山登志雄(1929年〜2006年)
東武動物公園の元園長

西山登志雄は終戦間もない東京で生まれました。子どもの頃から動物が大好きで、そんな西山が上野動物園で働き始めたのは自然な成り行きだったのでしょう。カバの担当だった西山は、カバの口を大きく開かせる特技を持っていて、子どもたちから「カバのおじさん」と呼ばれました。それがそのまま彼のニックネームとなり、東武動物公園の初代園長になってからはカバ園長と呼ばれ親しまれたのです。

そんな彼が動物を心から信頼するようになったエピソードがあります。まだ西山が若い頃、動物園で育児放棄をしてしまったトラがいました。このままではトラの赤ちゃんが死んでしまうと考えた西山と先輩飼育員は仔犬を産んだばかりの母犬にトラの赤ちゃんを育てさせたのです。母犬はかいがいしくトラの赤ちゃんの世話を焼き、数ヵ月もするとトラは母犬よりも大きく成長しました。役目を終えた母犬は新しい飼い主に引き取られました。

さらに数ヵ月後、新しい飼い主が母犬を連れて動物園に遊びに来たのです。嬉しそうにトラの檻の前にきて入りたがる母犬。しかし、トラはすっかり大きくなりかつての面影など微塵もありません。その時、先輩が言ったのです「西山、会わせてやろうぜ」と。さすがの西山も「いや、それは危険です」と止めたのですが、その先輩は「西山!お前、そんなに動物が信用できねえのか」と一括。見物客も見守る中、母犬はトラの檻の中へ。すると、トラたちは小さかった赤ちゃんの時のように母犬に甘え始めたのです。動物に対しての信頼感を強く西山がもった瞬間です。

カバ園長と言われた西山が、カバの口の中に手を入れて歯の手入れをする映像が残っていますが、それは西山とカバとの間に信頼関係があったからこそ。本来、気性が荒いカバも、西山が心から自分たちを信頼しているとわかっているからこそ、黙って口を開けていたのでしょう。

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