#183「文学を愛し、文学批評を確立させた男」小林秀雄

非常識人列伝

世界を動かした非常識人列伝 第183話

小林秀雄(1902〜1983)
日本の文芸批評家、編集者

小林秀雄は近代文学史においてなくてはならない人です。ただし、小説作品ではなく彼は多くの文芸批評で名を成しました。辛口な筆致で当時の流行作家を切って捨てる批評は人気を集めました。しかし、本人は元々作家志望なのですから、批評だけが評価されるという状況には忸怩たる思いがあったのかもしれません。

小林が天才として唯一認めていたのは詩人ランボーでした。帝大の仏文科へ進んだ小林はランボーの影響を大きく受けて、詩作を開始します。しかし、目の前に現れたのは中原中也。その才能を目の当たりにした小林は詩人の道を諦め、批評などの文筆業への転身を決めたと言われています。小林にとって、これは最初の挫折と言えるでしょう。しかし、彼はただ黙って挫折するような男ではありませんでした。なんと腹いせなのか、歪んだプライドが成せる技なのか、中原中也の女を寝取ってしまうのです。

そんなスタートを切ったせいか、小林はかなり酒癖が悪く意地悪な性格でもあったようです。しかし、酔って暴れたりすることはありません。相手が泣くまで延々と説教が続いたそうです。そういえば、文壇デビューを果たしたのは懸賞評論だったのですが、小林は一等入選だと確信して、その賞金を前借りして酒を飲んでいたそうです。しかし、実際は二等入選。一等の賞金金額全額を飲んでしまっていた小林は、借金返済のため批評活動を本格化したという話もあります。

とは言え、ただ傍若無人な人物が後世に名を残すはずもありません。小林は文学的な表現をしっかり感じる感受性をもち、それを言葉にする才能に溢れていました。だからでしょう。戦後すぐに、文壇の人々があつまり、戦争責任について会談した際には、「僕は無知だから反省なぞしない。利口な奴はたんと反省してみるがいいじゃないか」と言い放ち ました。それはある意味で、戦前に自分が書き残した言葉には責任があり、身勝手に反省などしないぞ、という決意表明でもあったようです。

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