#192「太平洋と日本海を桜でつなごうとした男」佐藤良二

非常識人列伝

世界を動かした非常識人列伝 第192話

佐藤良二(1929〜1977)
桜の木を植え続けた国鉄バスの車掌

ある春の日。佐藤良二は、咲き乱れる桜の木の幹に泣きながら抱きついている老婦人の姿を見ました。その桜は、御母衣ダム建設によって水没する地区にあった桜を名金急行線の路線沿いに移植したものでした。佐藤は、この夫人の姿を見て心を動かされてしまったのです。

佐藤良二が国鉄(現在のJR)に入社したのは1953年。入社から数年した頃、佐藤は造園業者だった丹羽政光からある依頼を受けます。それは、ダム建設によって水没する地区の桜の木の移植をするのだが、それを撮影し記録してくれないか、というものでした。佐藤はその依頼に応じましたが、それはある意味、意気に感じての行動でした。

しかし、移植された桜の幹を抱えるようにして泣いている老婦人を見た時、佐藤の心は大きく動いたのです。1966年頃から、佐藤は名金急行線の路線沿いに桜の木を植え始めました。仕事の無い日には、苗木の手入れや桜の木の植樹にすべてを費やし、命尽きるまでに2000本の桜を植えたと言われています。

佐藤の植樹はただのボランティアという域を越えていました。病気がちで、国鉄の給与もそれを反映して少なかったにもかかわらず、彼は収入のほとんどを桜の植樹につぎ込みました。当然、国鉄の給料だけではやっていけず、家計を支えるために自宅を民宿にしてしまったほどです。桜の木を植え続けたという美談で語られることの多い佐藤ですが、そののめり込み方は異様なまでだったと言います。

1977年、佐藤は志半ばで病気のために逝去してしまいました。しかし、いまでも「国鉄の良ちゃんを知らん者はおらん」と言う人は多く、名金線が廃止されるときのセレモニーでも町長が佐藤の功績に触れたほどでした。

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