#239「対テロ戦争にたった1人反対した人」バーバラ・リー

非常識人列伝

世界を動かした非常識人列伝239話

バーバラ・リー(1946〜)
アメリカの下院議員

2001年9月11日。世界中を震撼させる事件が勃発しました。アメリカの同時多発テロです。ハイジャックされた旅客機4機がワールドトレーディングセンターとペンタゴンへと激突しました。ワールドトレードセンターのツインタワーは崩壊し、ペンタゴンも部分的に崩壊しました。

この事件はイスラム過激派アルカイダによるものとされ、アフガニスタンに潜伏する指導者であるビンラディンとテロリストたちを抹殺すべしという気運が米国内で一気に盛り上がったのです。時の指導者であったブッシュ大統領に対して武力行使を認めるかどうかの決議が行われましたが、その中で唯一反対票を投じた人物がいました。それがバーバラ・リーだったのです。

バーバラの反対票のインパクトはたった一票であったからこそ、とてつもなく強いものでした。バーバラが反対票を投じた理由はなんだったのしょう。彼女は投票の前日、何度も合衆国憲法の「議員の義務」を読み返したそうです。そこには「大統領が好き勝手しないように見張るのが議員の役目である」と書かれていました。これから戦争が起こるかもしれない状況の中で、大統領に白紙の委任状を渡すような真似はできない。そう考えたバーバラは迷わず反対票を投じたのです。

420対1という構図は、バーバラに対する非難の嵐を引き起こしました。「死ね」「アメリカから出て行け」という過激なものも多く、殺害予告まであったと言います。しかし、バーバラの願いも虚しくアフガニスタンへの攻撃は現実となりました。けれど、アフガニスタンへの対テロ戦争は大きな成果もなく、また、戦争の大前提となった大量破壊兵器さえ見つからないまま終結されたのです。

2019年、バーバラは大統領選の応援演説のためサウスカロライナ州を訪れました。すると、大柄な白人男性が涙を浮かべながら歩み寄ってきたそうです。彼は子どもと一緒でした。そして、こう言ったのです。「私があなたに謝るところを、この子に見せたかった。私もあなたにひどい手紙を送った1人です。でも、いまはなぜあなたが反対票を投じたのかが分かります」と。

強い信念に基づいて行動してきたバーバラ。いまアメリカでは彼女への再評価が集っています。

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